群馬県高崎市のリフォーム・リノベーション

事業企画部門

No.12 電話

投稿日:2017.11.24

「ふとした時に不安になってダメなんです。」
「顔を見れば、言いたいこと、分かるんですけど。」

 

そんなことを、私の友達が言っていた。
試行錯誤の末に、ぬいぐるみの真向かいに座って、受話器を持つ。
可愛い構図とは真逆の、少し緊張した表情。

 

「電話がね、苦手なんですよ。」
そんな彼女の不安げな「もしもし」が、耳に残った。

 

 

No.12 電話

 

ワンコール/ラブコール

 

何かと、悲しい恋の歌にでてくるのが電話だと彼は言う。
直接あって、話せばいいのだと。
遠い昔の人も、きっと、同じ気持ちで受話器を持った。
直接会って、話せればいいのにと。

 

「もしもし」という言葉が生まれたのは、電話が繋がり切れる時代。
「お電話を差し上げたのは私です、あなたへ届いておりますか」と
呼びかける言葉が必要になり、生まれた。

 

「あなた」へ繋がるコールはいつの時代も、目に見えない細い糸。

それは、背中へ呼びかけるときと同じ色。

 

 

ツーコール/アンコール

 
長い長い呼び出し音の終点には、懐かしい声がした。

「ん。おがったなぁ。」 うちのにおいがする。

電話だから、見えてないでしょ、まで言うのが二人の約束になって、何年だろう。

地元を離れて数年、夏の帰省も難しくなってしばらく。

見えなくても、会えなくても、声を聴けば繋がれるものがある。

言葉が混ざり、一本の線になって、何キロも何キロも遠くへ飛ぶ。

今年は、帰るから。

「んだが、わがった。」

あたしが家を出た時と同じ声で、もう一度。

 

スリーコール/ペトリコール

 

長い間待っていた。

セールスとか、間違い電話とか、こんな時ばかり耳につく音で、心を揺らす。

 

思えば、回り道ばかりの人生だった。

何も知らないまま社会に出て、がむしゃらに働いて。

自分に合っているのか、やりたいことはなんなのか、問い直すこともやめてしまった。

ゆっくりだった人生の秒針は加速し、家庭を持つ頃にはぐるぐると全ての針が走っていた。

 

いや、走っていなければならないと思っていた。

本当にやりたいことをわからないまま止まっていたとしたら。

ぞっとするような時間を、捨ててしまっていたら。

 

それでも今日、自分の人生の意味を一本の電話で知る。

嬉しそうな娘の声は、ぼくの人生に芽吹き、花開く。

やりたいこと、とは全てを終えた後に

やりたかったことだったんだなぁって思うものなのかもしれない。

 

ゆっくりに戻った時計を見つめると

じんわりと熱く滲む視界が、長いこと続いていた日照りの終わりを告げていた。

地に染み渡る雨は、苦しみの汗であり、喜びの涙だ。

 

おめでとう。それから、ありがとう。

 

 

「それじゃあ、また。」

受話器を置いた彼女が、ふっと息を吐く。

「苦手だけど、好きなんです。」

電話の醍醐味は、おそらく彼女が一番知っている。

 

次のコールは、どんな物語をつなぐのだろうか。


≪今回の言葉≫
*暮らし/住まい/家/インテリア/リフォーム/リノベーション
*物語/本/食/衣/旅/出会い/思考/文化/芸術
*コールを待つ時間も、二人の物語は動き出している。暮らしの中の、ドラマチックな、一ページ。