群馬県高崎市のリフォーム・リノベーション

事業企画部門

No.09 温泉

投稿日:2017.10.17

 

一足先に、紅葉が到着していた。

うねうねとした道を車で走ること、2時間半。

群馬の名湯、出で湯の街へとやってきた。

 

 

No.09 温泉

 

地面に立った瞬間に、五感が伝えることがある。

地熱と硫黄で滾る温泉。高い山々と巡る湧水の冷涼さ。

「たまごのにおい」とも言える硫黄臭は、好き嫌いが分かれるそうだ。

確かに、湯にざぶんと浸かるまでは慣れそうもない。

 

坂をくだりて街へゆく。

見慣れた看板が茶色に溶けていくのを見つける。

ここは非日常の街。温泉街。

だんだんと湯けむりが近づいてきた。

 

あまりにも美しい色が飛び込んできたものだから。

私は、この色を伝えたかった。

 

街の中央というのがふさわしい湯畑は、湯の花が咲く。

ナイルグリーンの水面は、日本的な透き通った美と、

まるで知らない外国の、遠い海、遠い空、遠い町の青を思わせる。

吹きあがる湯気はすべてを包み、気が付けば湯に浸されていた。

  

共同浴場、町の温泉、隠れた名湯、薬のいで湯。

どこに行くときも、人はみな、極楽を目指している。

武器も持たず、今日を嘆くでもなく、明日を憂うわけでもない。

お隣さんに冷え者ですが、と入ってきた日本人の心は

古代ローマからジンが飛び出すアラブの国まで、同じ湯に溶けている。

仏教において貧しい者や囚人にこそ湯が進められたのは

その効能が人の芯へと届くからだろう。

じんわり、じんわりと熱が私を解いていく。

 

車が走り、レールが敷かれ、ずいぶんと地球は狭くなった。

そのおかげか、日帰りで湯を楽しむ人も多い。

一日だけの特別な体験は、日常を見る目も住ましてくれる。

 

暮れに灯る家明かりを、坂の上から見下ろした。

街全体を包む“湯”は芯まで満ち、鼻はすっかり慣れていた。


≪今回の言葉≫
*暮らし/住まい/家/インテリア/リフォーム/リノベーション
*物語/本/食/衣/旅/出会い/思考/文化/芸術
*急な冷え込みとあたたかなもの。同じ湯舟に浸かる交流は、現代に残る最もはじっこの、あたたかな交点。